月の輝く夜に作 F十五 満月が晧晧と照っていた夜の事だった。 僕は人影の絶えた公園でひとりブランコをこいでいた。こぐ度にキーコキーコと音のするブランコを、高く、高く、高く・・・・・・。 そこへパトロールのポリスマンがやってきた。 五十歳前後の、しかめ面をした、随分と大柄の男だった。 「こんな夜中に何をしている」いかめしい声で言いながら、そんなことをしなくても月の明かりで十分なのに、ポリスマンは懐中電灯の光を僕に当てた。 見ればわかるだろう、と言いたいところだが、彼の気持ちは分からないでもない。いい大人が真夜中にブランコをこいでいるのだ。 僕はブランコをこぐのを止めて、 「ブランコをこいでいたんです」と答えた。 「そんなことは見ればわかる」ポリスマンはやや怒気を含んだ声になって言った。 今度は、じゃあきくな、と言いたかったのだが、ポリスマンに邪魔をされてはかなわない。月に群雲のたとえもある。早くしないとかげってしまうかもしれない。こんなにいい条件の日は滅多にないのだ。 「こんな夜中にこぐのは仕方がないんです。だって今日みたいな満月じゃないと駄目なんですから」 「どういう事かね」 「お巡りさんは大人の僕がブランコに乗っているのをおかしいとお思いでしょう。それは当然の疑問です。でも、子供がブランコに乗るのなら当たり前でしょう?」 「君は大人じゃないのかね」 「まあ、見ていてください」 僕はブランコをこいだ。天空まで届くように、月にまでぶつかるように、高く、高く、高く!そして、僕に変化が訪れる。 それは手品ではない。 薄かった髪が生え、歯茎が引き締まり、老眼が直り、しわやしみが消え、皮膚に弾力が戻る。六十歳の僕が五十歳に、四十歳に、三十歳に、二十歳に・・・・・・。 十歳になった時点でぼくはこぐのを止めた。あんまりこぎすぎると赤ん坊にまで戻ってしまう。 ブランコからおりた僕はポリスマンを見上げた。 ポリスマンは呆気にとられている。口をぽかんと開き、悪夢を見続けているような顔で僕を、今は子供になった僕を見つめている。 僕が子供になったという事は事実である。そしてポリスマンは混乱しながらも、この事実を受け入れたようだ。弱々しい(それでも威厳を保とうとした)声でつぶやくように言った。 「・・・・・・子供は早く帰って寝なさい」 |